感情と健康5

認知心理学と感情心理学領域では,ネガティブな感情と認知機能の研究に引き続いて,

ポジティブな感情と認知機能についても興味が持たれるようになってきた。また(Seligman, 1998)の主張は,人間を外的な影響を受動的に受ける傷つきやすいものと考えるのではなく,いきいきと人生を築いてゆくことを目指して,環境に対して積極的に働きかけてゆく楽観性を持ち,自分の人生に対して責任のある存在を見るという観点の重要性を主張している。また(Snynder & Lopez, 2002)は,人生の中の悪い事を修復するのに没頭するだけではなく,人生における最良の特質を築くことに集中し主観的レベル,個人的レベル,集団的レベルにおいてそれぞれポジティブなものに焦点をあてることであると述べ、例えば,ポジティブな主観的経験のレベルでは,ウエルビーイングや満足とか,現時点でのフロー感や,喜び,感覚的な楽しみ,幸福,また未来については,オプティミズムや希望や信仰など建設的な認識が大切であるという。

一方ネガティブな感情の生起は,血圧,脈拍などの自律神経系反応の亢進をもたらし,その持続は心身の健康に悪影響をもつと考えられ,ストレスに遭遇した時,生体は血圧が上がり,脈拍は速くなり,呼吸は速くなり骨格筋への血流量は増加するが,末梢への血流量は減少する。またアドレナリンが放出される。こうした反応は,緊急反応(Cannon, 1929)と言われている。また(Mayne, T.J., 1999)は,ネガティブ感情が身体的健康に与える影響について展望しネガティブ感情に関係した交感神経の活性が疾病を促進する可能性があることを指摘している。特に敵意や怒りといったネガティブ感情が心筋梗塞などの心臓血管系疾患と関係がありそれ以外にも抑うつは,免疫機能を抑制し癌の進行を速める(Temeshock et al .,1985)ということも報告されている。これまでストレス刺激が免疫機能に有害な影響を及ぼすのではないかとする考え方から多くの研究が進められている。ストレスとのかかわりのなかで最も重要な役割を担っているとされるのがNK細胞である。ある種のがんに有効な免疫療法剤として知られているインターフェロンは有効な地ュ洋節因子であり,NK細胞の増殖や分化を促進し,NK細胞の標的細胞に対する殺傷能力を増強させることがしめされている。キーコルト・グレーサーら(Kiecolt-Glaser et al., 1984),医学部学生の最終試験時のストレス状況が学生らのNK細胞の活性化低下と関連していることを発見している。

私たちが健康で活力ある日々を過ごすためには,ポジティブな心身の状態を確保していくことは重要である。しかし常にポジティブな状態で入れることは難しい。

であるからこそ,苦境やネガティブな状態に陥った時にそれにとらわれることなく,ポジティブな感情を喚起あるいは回復出来るかが重要になる。ストレス状態が免疫系に有害な状況を及ぼすというのであれば,反対にポジティブな感情状態,前向きな認知傾向あるいは積極的行動を取ることが免疫系に有益な影響を与えるということも考えることができる。

最近の脳科学的知見では,笑いによって大脳基底核が刺激されることによって神経伝達物質のドーパミンが放出され,NK細胞を活性化させるのではないかという仮説が提出され

笑いは唾液中の免疫グロブリン抗体の増加,血圧降下などの生理的変化を生じさせることが指摘されている(Lefcourt, 2002)

(平尾・山本, 2008)は,ポジティブライフイベントに対する認知の違いによって精神的健康(自尊感情,抑うつ,ストレス反応)や性格特性についてどのような違いがあるかを検証している。その結果ストレス反応において,ポジティブライフイベントについてポジティブな

認知をする高群の方が,低群に比べ有意に低いということが得られている。