感情と健康4

従来から精神的な健康を維持するには,現実や自己について,正確に認識することが,重要であると考えられてきた。
先行研究の中では、精神的健康の問題を,認知的アプローチの面から探る研究が増えている。そうした研究の中で特に注目されるのが,「楽観的に自己に都合の良いように傾いた認識こそ,人が適応的に生きていく上で必要である。」とする。ポジティブイリュージョン(positive illusion)の考え方である。
(Taylor&Brown,1988)がポジティブに傾いた自己概念を持っていることが,精神的健康につながるという,あらたな精神的健康感を提唱した。
ポジティブイリュージョンとは,「実際に存在するもの・ことを,自分に都合よく解釈したり,想像したり,イメージしたりする概念」と定義される。
Taylor&Brown(1988)は,ポジティブイリュージョンを自分自身をポジティブに考える、
自分の将来を楽観的に考える、外界に対する自己の統制力を高く評価する、というこの3つのポジティブイリュージョンが、精神的健康に結びついていると結論している。
また非現実的な楽観主義は,ポジティブな結果は自分に生じやすく,ネガティブな結果は他者より生じにくいという認知的なバイアスを意味する。こうした認知的傾向を示したのはワインシュタインで(Weinstain,N.D.,1980)である。ワインシュタインは,良い仕事に就く,自分の家を持つなどの18のポジティブイベントな事象と,心臓病になる,離婚するなどのネガティブなイベントについて,自分自身について生じる比率と他者に生じる比率の評定を被験者に求め,その差を検討した結果,ポジィティブな事象に関しては生起可能性や望ましさが高いほど自分に生じやすいとみなし,ネガティブな事象に関しては,コントロールが可能で特定の人にしか生じないというステレオタイプ的な認知を持つほど,自分に生じにくいと考えることが示された。
またTaylor & Brown (1988)は,被験者に対して癌などのネガティブイベントが,一般的な人と比べどれぐらい起こりにくいかということに評定を求めた。
その結果大多数の人が,自分は平均より上であるとみなしたが,多数の人が,他人より優れているということは論理的に不可能なことであるので,「イリュージョン」という言葉が使われている。実際,楽しい気分や高揚した気分といったポジティブな気分の時には,ネガティブな感情価持つ記憶よりもポジティブな感情価を持つ記憶の方が想起されやすい。一方悲しい気分や抑うつ的な気分といったネガティブな気分の場合には,逆にネガティブな記憶の方が想起されやすいことが明らかにされている(Bower, 1981)。1990年代には,ポジティブな精神機能が多く研究されるようになってきた。
すなわち健康的な人には,自己を良きものと考え,自分の未来を明るく描き,自己の統制力を強く信じる傾向がみられるというのである。自己認知と精神的健康は,結びついていることが示され,自己高揚的な認知をしている人は,より健康的に生活している(外山・桜井,2000)ということも明らかにされている。